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リハビリ専門職(作業療法士)の私が、肩こり、肩の痛み、腰痛、膝痛、骨盤トレーニングなど、「自分でできる」をキーワードに対策方法を伝授します。

脊髄損傷の褥瘡評価と褥瘡予防

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脊髄損傷者では四肢麻痺などの影響から、褥瘡を発生する可能性が高くなります。褥瘡対策としては予防が重要で、対象者の状態に合わせた環境設定や動作方法の指導を行うことが必要になります。今回、脊髄損傷の褥瘡評価と褥瘡予防について、文献を参考にまとめていきたいと思います。

 目次

 脊髄損傷の褥瘡評価と褥瘡予防

脊髄損傷における褥瘡発生の特徴

脊髄損傷における褥瘡発生率は、若年者のほうが優位に高く、四肢麻痺よりも対麻痺のほうが優位に高いとされており、手術が必要な褥瘡を発生した割合も対麻痺のほうが高いとされています(後期脊損データベースより)。
このことから、若くて比較的自由に動くことができる対象者が重度の褥瘡を発生する傾向にあると言えます。

脊損に特化した褥瘡アセスメントツール:Spinal Cord Injury Pressure Ulcer Scale(SCIPUSスケール)

Spinal Cord Injury Pressure Ulcer Scale(SCIPUSスケール)は、日本褥瘡学会ガイドラインにおいて発生予測として推奨度C1となっています。
15項目から構成され、各項目の点数に応じ計25点で評価します。
褥瘡発生リスクは、2点以下は低い、3〜5点は中等度、6〜8点で高い、9点以上でとても高いとなっています。
評価項目の「尿失禁または常時湿潤」の項目に加え、便失禁にも注意する必要があります。
便失禁があると、褥瘡発生リスクが22倍高くなるとの報告があります。
「自律神経失調または重度な痙縮」の項目がありますが、弛緩性麻痺では筋委縮から骨突出部における褥瘡発生リスクが高くなります。
認知機能では、認知症だけでなく、精神疾患や知的障害など、本人自ら褥瘡予防ができるかどうかを把握します。

Spinal Cord Injury Pressure Ulcer Scale(SCIPUSスケール):

1.活動レベル 0:歩行 1:車椅子 4:ベッド
2.可動性 0:可能 1:限界あり 3:不動
3.完全脊髄損傷 0:いいえ 1:はい
4.尿失禁または常時湿潤 0:いいえ 1:はい
5.自律神経失調または重度な痙縮 0:いいえ 1:はい
6.年齢(歳) 0:≦34 1:35〜64 2:65≧
7.喫煙 0:なし 1:以前あり 3:現在あり
8.呼吸器疾患 0:いいえ 2:はい
9.心疾患または心電図 0:いいえ 1:はい
10.糖尿病または血糖値≧110mg/dl 0:いいえ 1:はい
11.腎疾患 0:いいえ 1:はい
12.認知機能障害 0:いいえ 1:はい
13.ナーシングホームまたは病院 0:いいえ 2:はい
14.アルブミン<3.4g/dlまたは総蛋白<6.4g/dl 0:いいえ 1:はい
15.ヘマトクリット<36.0%(ヘモグロビン<12.0g/dl) 0:いいえ 1:はい

内科疾患と褥瘡

後期脊損データベースでは、肺疾患、肝疾患との関連があり、心疾患や腎疾患、糖尿病との関連がなかったとなっており、前期脊損データベースでも肝疾患の関連はあり、低アルブミン血漿との関連が考えられます。

褥瘡好発部位

日本、アメリカのデータベースからは、尾仙骨部が最も多い部位となっています。
高位頸髄損傷では肩の痛みにより側臥位をとることが困難なことが多く、車イス主体の生活により股関節伸展制限が生じ、臥位にて仙骨部への負担が大きくなる傾向にあります。
座位にて仙骨座りだと、尾仙骨部の褥瘡発生率が高くなります。
ウレタンマットレス使用環境では、長座位、ギャッジアップ75°姿勢にて尾仙骨部に当たる周辺のへたりが大きくなったとの報告があります。

褥瘡とほかの原因によるものとの鑑別

臀部褥瘡では、肛囲皮膚炎やオムツかぶれ、白癬症などの皮膚疾患と褥瘡の混在パターンがみられることがあります。

脊髄損傷者の仙骨部皮膚血流は、急性期では加重時の血流が非加重時と比べ低下しているとの報告があります。
また、麻痺部の微小循環圧が健常者と比較し有意に低いとの報告もあり、血管運動障害による褥瘡発生リスクが高まります。
そのため、弾性ストッキングや装具、尿道留置カテーテルや点滴チューブ、生地の硬いズボンのしわも褥瘡発生リスクを高めます。

関節拘縮と褥瘡

損傷レベルにより生じやすい関節拘縮の肢位があります。
C4:肩甲骨挙上位
C5:肩甲骨挙上位、肩関節外転位、肘関節屈曲位、前腕回外位
C6:肩関節外転外旋位、肘関節屈曲位、前腕回外位、手関節背屈位、手指屈曲位、
C7:手指伸展位

長期の車椅子生活では、股関節伸展制限により腹臥位姿勢をとることが困難になる傾向があります。
大腿筋膜張筋や縫工筋の短縮では、膝屈曲位では股関節を閉じれても、膝伸展位では股関節外転位をとり、ベッド上での安楽姿勢をとれないこともあります。
足部内反尖足があると車椅子のフレームに下腿外側があたり、褥瘡発生につながることがあります。
ハムストリングスの拘縮は仙骨座りを悪化させ、尾仙骨部の褥瘡発生率を高めます。
高位損傷では、ある程度の関節拘縮が動きの単純化を促し、動作獲得につながることもあり、ROM訓練の調整をします。

日常動作と褥瘡発生リスク

脊髄損傷者では、感覚障害により皮膚の異常に気づかないことも多く、また麻痺領域の痛みがわかるとの自覚があっても、正確には侵害受容を把握していないこともあるため注意が必要です。

日常生活上では、長時間の同一姿勢、坂道などの車椅子駆動、座位での移動や方向転換、高低差のある移乗動作などを行うと、坐骨や尾骨などに圧縮応力や摩擦、剪断ストレスが加わり、軟部組織がダメージを受けることになります。
動作は自立していても、動作の質が悪いと大きなダメージを受けやすくなります。
座位をとる場所は車椅子やベッド上だけでなく、トイレや風呂など、様々な機会があり、褥瘡予防の教育が大切になります。

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褥瘡予防策と方法

基本戦略は除圧をいかに行うかになります。
急性期では褥瘡発生予防を第一に考え、回復期や生活期では褥瘡予防と動作の自立の両方から福祉用具の選択を行う必要があります。

マットレス:
褥瘡予防効果が高い製品(商品名:ロンボケアマットレス)と低い製品(商品名:クレーターマットレス)で健常者によるプッシュアップでの手の沈み込み量を比較した研究では、予防効果の高い製品では約20〜30mm程度大きく、手の置き方は手を開いた状態よりも握り込んだ状態では20〜30mm大きかったとの報告があります。
このような差は、ベッド上の座位移動やベッド-車椅子間の移乗動作自立に関係すると考えられます。
沈み込みの小さいマットレスを使用するのであれば、滑りやすいシーツやズボンなどを利用することも必要になるかもしれません。

車椅子、クッション:
車椅子姿勢では、座面が平坦なほど姿勢の崩れが起こりやすくなり、座角をつけた方が安定します。
頚髄損傷者では、座角があると車椅子座面上での移動が困難となることがあり、移乗動作の自立を妨げることがあります。
自動車運転では、車内への車椅子の積み込みを自分で行うのであれば重量も考慮する必要があります。
バックレストの高さはある程度必要で、不十分だと臀部に加えて胸腰椎部にも褥瘡や滑液包炎が発生しやすくなります。
肥満によりスカートガードに大腿部が接触することで褥瘡が発生する可能性もあります。
高位頚髄損傷者では、起立性低血圧との関連から座位変換型の車椅子(ティルト式、リクライニング式)が必要になります。
リクライニング式はバックサポートのみが傾斜するため、仙骨座り傾向になりやすく、自力での除圧ができずに残留ずれ力・圧が残ったままになりやすい特徴があります。
痙縮による身体のずれや、リクライニング操作により自力での電動操作ができない場合もあります。
一方、ティルト式では同じ姿勢が続くことで関節拘縮を生じやすいデメリットもあります。

車椅子用クッションは体圧分散できるものや剪断力防止効果の高いものが選択されることが多いです。
空気調整機構付きのクッションではゲルやウレタンと比較し座位が不安定になりやすいため、初期から対象者導入しておかないと使用を希望しないようなことも考えられます。
座位安定性を考慮した形状のクッションも製品もあり、車椅子の条件が悪くてもある程度対応が可能になっています。
ロホクッションはバルブが一つの平坦なタイプに加え、大腿部と坐骨結節の空気量が個別調整できる2バルブタイプのものや、複数のバルブによりエリアごとに空気量が調整できるものまで様々なものがあります。

トイレ環境:
便座前方に座る場合、便座にはまり込むような姿勢となり、転子部後面や尾仙骨部に圧迫や局所の剪断力が大きくかかります。
座面が低すぎると膝が持ち上がり、さらに臀部のはまり込みが起こりやすくなります。
便座後方に座る場合、坐骨部に圧が集中しやすくなります。
便座移乗の際やズボン着脱の際、臀部の摩擦や剪断力に注意し、便座用クッションの使用も必要と考えられます。
温便座は熱傷や局所の軟部組織の障害を引き起こすこともあるため使用しないほうがよいとされています。

入浴環境:
入浴動作にて安全性を考慮すると滑りにくいマット(褥瘡には良くない)が必要となります。
浴槽用マットレスではないですが、パシフィックサプライ社のエアレックスマットレスは適度な弾力性、滑りにくさ、水への強さが備わっているといえます。
浴室での座位移動をできるか限り行わない環境設定も必要となります。

褥瘡予防とリハビリテーション

リハビリテーションでは、退院後に褥瘡が発生しないように、初期から将来を見据えた環境設定や動作指導が必要になります。
また、褥瘡が発生したとしても、発生の誘因の確認とリスク評価を行い、必要以上安静しないようにし、廃用症候群を防ぐようにすることが大切になります。

褥瘡予防と排尿排便コントロール

排尿障害があると細菌尿となっている場合が多く、尿失禁は蒸れの問題だけではなく局所の感染リスクを高めることとなる。

池田 篤志「褥瘡予防と対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5

排便時間は胸腰髄損傷者では20〜90分(平均38.8分)、頚髄損傷者で10〜90分(平均48.2分)との報告があり、排便を短時間で行えるように内服薬、坐剤、浣腸などの調整が重要となります。
失禁が少なければオムツからパンツに変更し、局所的な蒸れを抑えれますが、排便反射が消失している場合、坐剤や浣腸の反応が悪いことがあります。

褥瘡予防の評価

日本褥瘡学会ガイドラインでは、自分で姿勢変換が行える場合、15分ごとに姿勢変換を行ってよいとありますが(推奨度C1)、明確なエビデンスはありません。
数秒〜数十秒のプッシュアップでは除圧には不十分で、坐骨部の組織還流が改善するほどの除圧効果がないことがわかっています。

評価では通常の車椅子座位姿勢に加え、前屈姿勢や側屈姿勢、フットレストから足を投げ出した姿勢、足を組んだ姿勢などの除圧効果も評価する必要があります。
また評価結果から、除圧効果の高い姿勢を行うよう指導する必要もあります。
座圧測定で接触圧に問題がなくても褥瘡を発生する者もいるため注意が必要になります。

引用・参考文献

 池田 篤志「褥瘡予防と対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5