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上肢運動麻痺に対するリハビリテーションに向けてー到達・把握・操作運動の神経機構ー

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上肢運動は主に到達・操作から成り立ちます。上肢運動麻痺のリハビリテーションではこれらの要素を再獲得させることが目的となり、その神経機構や、それに基づくリハビリテーションを行うことが重要だといえます。今回、上肢運動麻痺に対するリハビリテーションを、到達・把握運動の神経機構から考えるために、文献を参考にまとめていきたいと思います。

 目次

到達・把握運動の神経機構

上肢の運動制御は、到達運動に関する情報処理系と、把握・操作運動に関する情報処理系の2つによって達成されます。
上肢運動における視覚での制御は頭頂連合野が関与し、到達、把握・操作運動を別々に制御しているという仮説があります。
視覚的制御としては、到達運動では対象物の位置情報が必要で、把握・操作運動では対象物の大きさや傾きの情報が必要になります。
対象物の位置情報から空間の方向について肩関節での運動がプログラムされ、また距離の調整について肘関節での運動がプログラムされます。
対象物の大きさや傾きの情報から、手の構えや前腕、手関節での運動がプログラムされます。
これらは頭頂連合野で処理され、それを基に視覚的な運動制御に関わる運動前野がプログラムを形成すると考えられています。
視覚的な情報により一度対象物の視覚分析が行われて記憶されると、閉眼においても行為は行えます。また視覚では認識できない情報(硬さ、重さなど)でも、実際に触らなくても想起できます。これは、過去の経験により内部モデルとして蓄積されているためだと考えられています。このことから、運動の準備段階で期待される運動感覚が脳内で作られているといえます。これを記憶誘導型の運動制御と呼び、視覚・体性感覚の統合や知覚運動経験により蓄積されてきたものとなります。

到達運動の神経機構

到達運動の達成には、

視覚情報から得られる対象の位置情報を行為に関する運動企画(運動プラン)に変換する過程、次いでその企画に基づく運動プログラムを形成し運動に導く過程、そして企画に基づく行為が実現されているかを監視し、必要に応じて運動の修正を図る過程がそれぞれ必要であると考えられている。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P117

とあります。
これらに対する神経機構は、頭頂連合野(下頭頂小葉)と背側運動前野が関与していると考えられています。
到達運動では、対象物を注視するためにサッケードが生じ、頭頂間溝外側領域(LIP野)が関与します。そこからの位置情報により、対象物が視空間内に存在するかを認識し、到達運動のための運動制御が算出され、これには上頭頂小葉(頭頂連合野)の頭頂間溝内側のMIP野、内側頭頂後頭領域(V6A野)が関与します。
MIP野は到達運動中持続的な活動が見られ、V6A野は視覚・体性感覚両方に反応する感覚領域野となり、また上肢運動制御に関わる背側運動前野との結合があり、対象物の視覚的・体性感覚的な両側面から運動を制御する機能があると考えられています。
視覚誘導型の運動制御は、頭頂連合野と腹側運動前野のネットワークの関与もあります。一次体性感覚野で処理された情報は頭頂連合野に伝達され、一次視覚野から背側経路で処理されてきた空間情報と統合します。統合された情報は腹側運動前野へと伝わります。

腹側運動前野は、頭頂間溝領域野から多くの投射繊維を受けており、運動の開始や遂行に役割を果たしているとともに、視覚刺激に応答するニューロンが存在している。この視覚誘導型運動の情報処理過程は、先の述べた内部モデルによって調整されており、腹側運動前野と小脳とのネットワークが運動の滑らかさを生成していると考えられている。腹側運動前野は小脳からの入力を受けており、小脳における誤差信号が腹側運動前野にフィードバッックされるのであれば、このネットワークによって視覚誘導型運動の学習が行われていると考えられる。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P118

補足運動野では過去の知覚経験を基にした記憶誘導型運動制御に関わり、大脳基底核からの入力により内的な情報から運動プログラムを作っていると考えられています。

把握・操作運動の神経機構

手の把握・操作運動では、対象物に対する手の構え(プレシェイピング)が重要になります。頭頂葉の障害では、プレシェイピングが行なわれないことがあります。
頭頂連合野の頭頂間溝外側部(AIP野、LIP野)の領域を破壊して把握・操作運動を観察したところ、AIP野の破壊でプレシェイピングが出現しないことがわかっています。LIP野の破壊では、到達運動に障害をきたすことがわかっています。AIP野は運動そのものよりも、運動前の対象物の知覚・認知とプレシェイピングに関連しています。
AIP領域のニューロンは、視覚優位型(視覚情報から対象物の空間を処理する)、運動優位型(空間に見合った身体図式を取り出す)、視覚運動型(対象の空間情報と身体図式を照合する)の3つに分類されます。またAIP野は腹側運動前野(F5野)と神経結合があります。
F5野では視覚運動型、運動優位型の神経活動があり、視覚情報を運動情報に変換し、運動指令を運動野へ送っていると考えられています。

AIP野は、CIP野(頭頂間溝外側壁尾側部領域)からの対象物の三次元視覚情報に基づき、その形や傾きを識別・認識するとともに把握・操作に必要な運動情報に変換し、数ある運動レパートリーの中から運動パターンを選択する機能をもっている。また、F5野においてもAIP野からの情報に基づき、その環境において適切な運動パターンを選択し、運動企画に基づいた運動情報を一次運動野へ送っている。なお、F5野で企画された運動指令が一次運動野に出力されると同時に、その遠心性コピー情報がAIP野に与えられ、運動後に得られた求心性情報と比較照合され、必要に応じて運動の修正が加えられるシステムが存在することで把握・操作運動が円滑に遂行されている。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P121

このことから、把握・操作運動においては、AIP野での対象物の視覚情報とそれに応じた身体図式(頭頂連合野での体性感覚と視覚情報の統合により形成される身体内部表象)を比較照合させ、F5野へ伝達し、運動プログラムを形成することが重要になります。
AIP-F5失行(道具操作)のメカニズムにも関与しています。以下の記事もご参照ください。

happyhealth.hatenablog.com

神経機構から考える到達・把握・操作運動のリハビリテーションに必要な要素

到達運動では、視線の向きと対象物までの距離が指標となり、脳はどの方向にどの程度手を伸ばすかを決定していきます。そのためリハビリテーションでは、

①対象物へのサッケードに始まり、対象の「位置」や「距離」などといった空間的な視覚情報処理機能、②肩・肘関節の運動覚など体性感覚の情報処理機能、③「①」と「②」を頭頂連合野にて統合させる機能、④「③」の情報をもとに運動前野との神経ネットワークにより運動プログラムを形成させる機能と、記憶をもとに補足運動野により運動プログラムを形成させる機能、⑤運動プログラムを小脳の誤差信号を通じ学習させる機能の獲得が重要になると言える。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P118

とあります。
操作・把握運動のリハビリテーションでは、

①形態・素材など対象物の視覚情報処理機能(AIP視覚情報優位型)、②体性感覚の情報処理と身体図式を形成する機能(AIP運動優位型)、③「①」と「②」を統合する機能(AIP視覚運動優位型)、④「③」の情報をもとに腹側運動前野との神経ネットワークにより運動プログラムを形成させる機能、⑤「④」の遠心性コピーを通じ運動プログラムを誤差学習する機能の獲得が重要になると言える。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P121

引用・参考文献