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自分でできる体健やかブログ

リハビリ専門職(作業療法士)の私が、肩こり、肩の痛み、腰痛、膝痛、骨盤トレーニングなど、「自分でできる」をキーワードに対策方法を伝授します。

運動麻痺に対するリハビリテーションと運動学習の神経機構ー認知・注意・記憶・イメージの用い方ー

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脳卒中片麻痺者のリハビリテーションでは、運動の異常要素の改善を目的として行いますが、その回復は脳の可塑的変化と捉えることができ、これは病的状態からの学習とも捉えることができます。脳の可塑的変化を促していくためには、運動学習理論に基づいたアプローチが必要となります。今回、運動麻痺に対するリハビリテーションと運動学習の神経機構について、文献を参考にしながらまとめていきたいと思います。

 目次

運動麻痺に対するリハビリテーションと運動学習の神経機構

運動学習に関わる脳領域と学習過程

運動学習は3つの段階があります。
初期には、学習者は運動技術を得るために、課題の特性を認知し、その認知に基づいて戦略を試していく段階です。この時の神経機構として、

 運動によって生じる感覚情報を各感覚領域で分析し、それらの情報を統合する前頭葉・側頭葉・頭頂葉における連合野が主に関与する。さらに、運動の言語化のために言語中枢の活動が関与する。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P97

とあります。また運動学習中の脳活動の変化について、

運動学習の初期には、頭頂連合野・運動前野の活動が関与することを示している。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P97

とあります。
学習中期では、試された運動戦略の比較照合がなされる段階で、運動プログラムを作る運動前野などの感覚、運動に関連する領域が関与します。
学習後期は自動段階で、特別な調整がなくても運動が遂行されます。この時には、連合野の働きが小さくなり、強化学習では大脳基底核などで無意識に運動調整がなされるようになります。また教師あり学習では、小脳が関与すると言われています。

強化学習、教師あり・なし学習

運動学習のモデルには、強化学習、教師あり・なし学習があります。
強化学習は人と環境の相互関係のなかから報酬を得て、それを最大限に強化するように自分の選択可能な行動価値を学習していくものです。

強化学習には、意欲や情動の喚起が大きく影響しているが、そのメカニズムに関与しているのが、中脳ドーパミン系とその修飾作用を受ける大脳基底核前頭葉である。
正の強化は、黒質腹側被蓋野ドーパミン神経細胞が興奮し、側坐核シナプス結合して快情動や意欲が生まれることで行われる。ドーパミン神経細胞は、行動を起こす時に得られる期待される報酬の量と、行動をとった結果実際に得られた報酬の量の誤差によって興奮し、興奮の度合いに応じてシナプス伝達効率を向上させる。報酬が完全に予測可能で誤差が生じない場合は正の強化は行われず、また、過大に予測を見積もり、実際の結果との誤差が負であった場合は、負の強化や学習無力感をきたしてしまう場合がある。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P98

教師あり学習は、自ら意図した運動の予測に対して、実現した運動結果との誤差を修正するなかで学習するものをいいます。
運動予測にはイメージや運動指令のコピー情報があります。運動結果は実際の運動から得られた求心性のフィードバック情報で、これらが比較照合されながら、誤差を修正していき学習されていきます。
誤差の検出には小脳が深く関わり、それを大脳に伝達する教師の役割を担っています。

小脳のプルキンエ細胞は、大脳からの意図を伝達する苔状繊維および平行繊維と、登上繊維からの誤差信号の両者を統合し、それらを調節する働きを持っている。このことから、小脳の機能は、フィードバック誤差学習と呼ばれる運動制御における比較照合モデルとして認識されている。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P98

学習初期では身体外部や身体内部の感覚フィードバックに基づくため拙劣な運動になりますが、この時運動開始前に運動予測を立て、予測とフィードバックシステムにより出力の誤差信号を元に最適な運動指令(内部モデル)を学習していきます。内部モデルが洗練されることで、感覚フィードバックに頼らずとも正確な運動が行えるようになります。
運動学習による比較照合システムでは、

運動指令のコピー情報と、実際の運動感覚の結果が、二次的運動感覚領野(運動前野・捕足運動野・小脳)で比較照合され、それが身体・運動スキーマとして下頭頂葉に格納される

リハビリテーション臨床のための脳科学 P98

とあります。
教師なし学習とは、

あらかじめ出力すべき明確な基準がないものであり、課題を繰り返すことで記憶がつくられ、その記憶と実際の結果を統合していく相関学習過程のことである。何に注意を向けるべきか、どのように注意を配分するべきか、どの記憶を使いどのようにシュミレーションするべきかといった作業記憶の過程を含み、対象者が能動的に課題を取り込むことで成立する学習である。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P100、101

とあり、主に海馬、前頭前野、運動前野、補足運動野、頭頂葉が活動します。

運動学習に向けた課題設定

学習には、脳の認知過程(知覚・注意・記憶・判断・言語)の発達に基づいており、訓練課題もその過程を考慮していく必要があります。
患者が能動的に運動予測(イメージ)と感覚フィードバックを比較照合させることが必要になります。また課題の難易度設定は報酬に関わることから、簡単すぎず、難しすぎずの範囲で設定する必要があります。
体性感覚を介しての認知課題では、体性感覚の刺激入力だけでなく、感覚を識別させることが必要になります。そこには知覚探索を通じて注意・記憶・運動イメージといった認知過程が活性化されることになります。
識別課題では、運動時にどのような体性感覚が得られるかの予測(知覚仮説)を立てさせ、実際に得られる感覚フィードバックとの比較照合を行なっていきます。その際の誤差を修正していくことで運動学習が促されると考えられています。また知覚仮説は運動イメージや運動プログラムの形成と関連があると言われています。

識別課題では、課題の解答における正誤反応だけではなく、どのような知覚仮説に基づいて解答を導き出しているかが重要となる。そして、その知覚仮説は、患者がどの情報を知覚し、注意を向け、記憶しているかといった患者の認知過程に影響される。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P102

体性感覚識別では、主に前頭前野・運動前野・頭頂連合野・小脳などが活動します。

リハビリテーションにおける認知過程の観察:認識(認知)

脳卒中片麻痺者では、運動学習での脳の認知過程(知覚・注意・記憶・言語・イメージなど)が活性化できず、意味のある情報として認識しにくいため、異常な運動パターンが出現します。この認知過程を観察するために必要な視点として、

どのように認識(認知しているか)
どのように注意・記憶を使っているか
どのようにイメージ・学習しているか
どのように言語を使っているか

リハビリテーション臨床のための脳科学 P103

が挙げられます。
認識(認知)では、求心性の感覚フィードバックを情報化していく過程をいいます。

随意運動は、これらの感覚フィードバックに基づいて、脳内で運動のイメージを想起し、最終的に発現するため、求心性の感覚フィードバックの情報化が困難であると、運動イメージも困難であると考えられる。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P103

このことから、認知では感覚情報をどのように認識しているかを評価する必要があります。
臨床では関節運動の部位(どの関節)、運動の存在の認識(静か動か)では3a野の機能を、接触情報の存在の認識(接触しているか否か)では3b野の機能を評価しています。
運動方向・距離の認識、身体の全体的な位置関係では1野や2野を評価しています。対側四肢と比較しての身体の位置関係の認識では5野の機能を、視覚認識した位置に対して四肢がどのような位置にあるか(体性感覚・視覚の統合)では身体図式に関わる7野を評価しています。

リハビリテーションにおける認知過程の観察:注意・記憶

前頭葉の注意と、頭頂連合野に関連する注意があります。
前頭葉の注意では、感覚情報が意識化される顕在的なもので、頭頂葉の注意では感覚情報が意識化されなくても潜在的に気づいているものです。
注意と運動出力の関連では、

 体性感覚の刺激のみでは、運動出力を担う4野へは送られず、注意によって環境に応じた身体の状況を適切に知覚した情報が4野へ送られるため、後方の脳領域から上行してくる多くの感覚情報の中から、「何に注意を向けてどこをどれだけ動かせばよいのか」という選択をする必要がある。認知課題にとって必要となるのは、このような前頭連合野の機能を中心とした顕在的な注意であると解釈できる。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P105

臨床では、身体各部や運動開始あるいは終了時に選択的、持続的に注意を向けることができるか、体性感覚(身体内部)や身体と接触する道具(身体外部)に注意を向けると感覚への認識に変化があるのか、注意の向け方を変えると異常な運動パターンをコントロールすることができるのかを評価していきます。
認知課題に解答するには、必要で意味のある感覚情報にどれだけ注意を向けられるか、ワーキングメモリを働かせて記憶できるかという機能(主に前頭前野背外側)を評価していきます。
複数の感覚情報を認識できるかを観察し、患者との対話から確認することで、注意配分の低下やワーキングメモリの働きを推測することが可能です。
この結果から課題の難易度設定を行い、情報数を増減させることが可能となります。またどの感覚情報であれば適切に注意が向けられるか、記憶できるか、身体図式や運動イメージをどのように構築できるかをセラピストは予測する必要があります。

リハビリテーションにおける認知過程の観察:イメージ・学習

運動イメージについて、

 運動イメージは外部からの感覚入力が存在しない状態でも記憶や予測される運動感覚に基づいて運動を想起している状態であり、運動麻痺を呈した脳卒中片麻痺患者の異常な運動パターンが表出される以前の脳の情報処理過程を観察するうえで重要である。つまり、異常な運動パターンが表出されるということは、期待される運動感覚に基づいて運動イメージが想起できない、また行為が予測制御できないという病態を呈していると考えられる。

リハビリテーション臨床のための脳科学 P107

とあります。
運動イメージは運動発現前の脳内予測(遠心性コピー)を意識化させるのに有効であり、患者が視覚イメージ(他者が運動しているところをイメージする)と運動イメージ(自らが運動をおこなっているところをイメージする)を区別することが可能か、運動イメージが麻痺・非麻痺側で比較できるか、運動イメージを想起することで異常な運動パターンを制御できるかを評価します。
具体的には、麻痺側の運動パターンを非麻痺側で再生させることで、麻痺側の運動イメージに対する患者の自覚を評価できます。
運動イメージの正確性では、実際の運動と心的な運動の時間的な一致を観察します。運動イメージが正確だと判断すれば、筋収縮を伴う課題へ、不正確だと判断すれば体性感覚情報の認識に関する情報処理過程(頭頂連合野)の問題なのか、運動実行のための筋感覚を想起する情報処理過程(前頭連合野)に問題があるのかを考えていきます。

リハビリテーションにおける認知過程の観察:言語

名詞はものが何であるかを認識し、運動発現に必要で、側頭葉の働きによります。
対象物や身体部位の認識が困難だと、運動性言語野で内言語でのネーミングができず、身体をどのように動かすかの認識が困難になります。そのため、「肩」「膝」などの部位の名前が認識できるかを評価する必要があります。
動詞は動きの認識に必要で、運動イメージを伴います。運動と前後左右の空間認識に関わり、頭頂連合野の働きが必要になります。「伸ばしている」(自己の運動イメージのシュミレーション:)と「伸びていく」(視覚的な他者の運動の認識)では意味あいが異なり、どのような動詞を用いて言語化しているか、どのような動詞で運動シュミレーションを介助できるかを評価していきます。
形容詞は触覚的・力量的・距離、時間的な認識に必要となります。形容詞は運動におけるこれらの制御に必要があると言えます。このことから、患者の運動制御に対する形容詞の認識を把握し、形容詞を変化させることで運動制御に変化があるかを観察することが重要になります。
修飾語や比喩は、「そっと」「棒のように」などがあり、運動の速度や自己の体の使い方、用い方の認識に必要です。これらは頭頂葉下部(角回)が関わり、体性感覚と視覚情報が統合、生成された身体図式と聴覚・記憶をさらに統合させる部位です。比喩により筋の力量のコントロールなどの変化を観察し、運動制御への気づきが得られるかどうかを評価していきます。

引用・参考文献